ザ・ノンフィクション
山本さんちの食卓 ~笑いと涙のサポートハウス~ 前編 (2023x38)
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日が暮れると、この家からは、いつもおいしそうな匂いが漂ってくる。
石川県金沢市の住宅街にある古びた一軒家。ここでは、20代から70代の男女7人が、一つ屋根の下で生活を共にしている。全員が血縁関係のない“他人同士”だ。障害や家庭の問題などで居場所を失った3人の若者たち。そして、彼らを見守る大人たち。毎晩、一緒に囲む食卓が、家族ではない彼らをつないでいた。
家の主は、金髪の“おばちゃん”こと山本実千代さん(62)。この家を「サポートハウス」、通称「サポハ」と名付け、行政の支援を受けることなく、複雑な事情を抱えた若者たちを受け入れてきた。彼女がサポハを始めるきっかけとなったのは、知的障害のある息子の存在…。同じ境遇の親子の力になりたいと、施設を立ち上げた。
そんな彼女が何より大切にしているのが「食事」。毎晩の食卓には、自ら育てた新鮮な野菜で作る大皿料理がズラリと並ぶ。どれも手間暇かけて仕込んだものばかり…「生きることは食べること。食べることは生きること」。若者たちは、山本さんの料理に背中を押されながら、自立を目指している。
2023年6月。山本さんが向かったのは大阪刑務所。実は、山本さんには「サポハ」の若者たちにも打ち明けていない、ある事情を抱えていた。
食卓を囲み、山本さんの料理を食べることで、家族のような絆を深めていくサポートハウスの日々を見つめた。
【語り】飯豊まりえ